2008年懸賞論文:入選作品 「十年後の私」原口美紀さん
2008/07/29
十年後の私
原口 美紀
^大学に入学した頃サークルの先輩から「10年後の自分はなんしよると思う。」とよく聞かれた。ちょっとした心理テストのようなもので、最初に頭に浮かんだ答えが、今一番なりたい自分なんだそうだ。私の答えは決まって「専業主婦になって、子供が学校から帰ってくるのをお裁縫をしながら待っています。」というものだった。
^人文学部に入学したばかりの学生が一番なりたい自分が専業主婦だなんてもしも当時先生方が聞かれたらさぞかしがっがりされていただろう。けれど私は本心から十年後は専業主婦になっていたいと思っていた。学校を出て、結婚、子育てを経て、自分の夢のために時間を使うのはそれからだと思っていた。私にとって大学は4年間で研究を極める所ではなく、生涯何かを学び続けていくための「学ぶ技術と知恵」を身につける所だと考えていたからである。
^さて、18歳から10年後、私は見事に予言を的中させて専業主婦になっていた。当時はまだ学齢の子は居らず、1歳の娘を育てながら裁縫をしたり、新聞に投書する文章を書く毎日だった。それから更に10年、二人の子供に恵まれ希望通り家で手仕事をしながら子供の帰りを待つ毎日を送った。
^しかし、そろそろ幸せボケしてばかりもいられない。次の10年ではしっかりと自分を築いていかなくてはいけない時期に来た。子育てが一段落してから取り組むはずの自分の夢を少しずつ形にして子供たちにも、親というより一人の人間としての私の生き方を見て欲しい。家族に対する責任のもち方、親としてのあり方、働く社会人と家庭との両立の仕方、そして自分にとって大切なものを捨てずに持ち続ける心を。
^文章を書くことを自己表現として生きて行きたいというかなり大雑把な夢と、心の中にあるいくつかの話を児童文学の形にしておきたいという夢が十代の前半から持ち続けている私にとって一番大切なものである。大雑把な夢の方は新聞の投書やこの懸賞論文の場を借りてささやかながらかなえさせてもらっている
さらに携帯電話でブログや小説を執筆できる時代になった現在、原稿用紙に万年筆というスタイルが一番好きな私でさえも、携帯電話で編集している自分の創作サイトを持っている。場所や時間を選ばず執筆でき、文章で表現したものを簡単に発表したり、逆に人目に触れないように非公開にして保存しておける現在の技術には随分お世話になっている。いわば私の創作倉庫のような存在だ。この論文にしても、常に子供たちに占領され、家族間でのプライバシーがなくなっている私のパソコンでの編集は最終段階まで取っておいて、パラグラフごとの執筆はもっぱら携帯電話で行っている。
^十年後、私はどんなスタイルで文章を書いているだろう。さらに執筆の方法は変わっても、常に書き続けていたいと思う。そしてできた作品を成人した子供たちに胸を張って読ませているだろう。