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卒業生からのメッセージ 第2回 山下哲雄さん

2004/12/14

お待たせしました。
第2回目の卒業生は、昭和49年卒 ドイツ語学科の山下哲雄さんです。
ドイツ滞在中のお話や、福岡での生活を綴った素敵な原稿をいただきました。

始まりはドイツの森

山下 哲雄

<プロフィール>
山下 哲雄(やました てつお)
ドイツ語学科 昭和49年卒業

^鬱蒼とした森の梢からキラキラと輝く朝日がもれ、まっすぐに伸びた遊歩道をまだらに明るくしている。ひんやりとした清々しい風が頬を撫でてゆく。前方から六十代半ばの、寄り添うように散歩する夫婦がやって来る。にこやかに互いの目を見ながら話している。ジョギングしている僕は息を弾ませ足音も軽やかに進む。
「グーテン モアゲン」(注:ドイツ語で『おはよう』)と二人はさわやかな笑顔で僕のほうに声をかける。僕も汗を拭きながら、二人の脇を通り過ぎる前に「グーテン モアゲン」と元気よく言う。走りながら振り向くと、二人はまだ話の続きをしているような後ろ姿で遠ざかって行く。

^幅100メートルもある広いマイン川が流れるドイツ・フランクフルト市近郊の森の中で、ジョギングをし始めたのは今から35年前のドイツ滞在中だった。森はアパートから車で5分ほど走ったところにあった。途中、ドイツのプロサッカーチームで、現在ブンデスリーグ2部のアイントラハト・フランクフルトのサッカースタジアム横を通り過ぎ、森の側の広場に車を駐車させ、僕はまっすぐ延びる遊歩道を走った。森に抱かれ、歩道の砂を踏みしめ軽快に駆けながら遠い昔のドイツの森に思いを馳せた。「森の海」といわれた深い森林が果てしなく広がる中世のヨーロッパ大陸、その中央にあるドイツ。そこで人は豊かな森の恵みを受け、森と共に生きている。森を開墾し、まず教会を建て、その周りに市場がたつ広場を設け、次に民家をたくさん建て、教会を中心に円形の町を作り上げる。最後に町の周囲に外壁をめぐらせて町を完成させる。町の外には畑が広がり、森の端へと続く。こずえには鳥達がさえずり、リスが幹を勢いよく上ってゆく。

^あれから二十数年が経ち、ジョギングの場は大濠公園と福岡城址がある舞鶴公園になった。ジョギングコースに福岡城の天守台を時折入れる。階段を上りきると、さえぎるもの一つない高台で青空を満喫し、町を一望する。さわやかな風に包まれて、能古島が浮かぶ海から遠くにそびえる若杉山の方へとゆっくり目をやり、そして視線を足元に広がる博多の町々へ移し、無数のビルと集合住宅そして立ち並ぶ甍を眺めるうちに中世の博多の町へと思いを馳せる。西公園は博多湾に臨み、湾の潮は大濠公園に流れている。住吉神社は那の津の川口にあり航海安全の神として信仰され、遠くには箱崎八幡宮の本殿が湾に臨んでいる。湾内には唐船が浮び、商人の町、博多は活気づいている。

^50歳になった4年前からウエイトトレーニングを始めた。歩いて2分のところにある中央体育館で汗を流す。利用者の中には米国人、オーストラリア人、フランス人、イギリス人、コロンビア人がいる。近頃は顔を合わせないが、ポーランド人、キューバ人もいた。時には、トレーニング場内は日本人よりも外国人が多く、多彩な顔ぶれで、話し声は英語が圧倒的だ。顔見知りがジム内に入った僕に「アメリカのジムにおるごたあね」と言ったので、ベンチプレスなどの器具を置いている奥の方を見ると、7,8人の大柄な米国人達が響き渡る英語で話しながらのんびりと体を動かしていた。外国人のほとんどと知り合いになっていた僕は、彼等の中に入り互いにトレーニングのパートナーとなって汗を流す。体のいたるところに筋肉を盛り上げて貼り付けたような元プロのトレーニング・インストラクターがそのなかにいる。名前はジェフ。僕はジェフのトレーニング指導をよく受けた。身長190センチに近い元インストラクターは時にプロ根性を出すことがあった。言葉巧みに説得力のある声で、運動と筋肉の理想的な関係を説明し、その後で、それを実現するかなり厳しい、抗うことのできない、激しい指導を僕に与える。僕がふらふらになると、「1分間休憩」というジェフの声で僕はやっと体を休める。一方ジェフはというと、重そうなウエイトを涼しい顔して上げ下ろして休むこともない。僕の目の前にはとても人間業とは思えない様子が展開している。いつものことだが、ジェフの指導を受けた後、1週間は筋肉痛で苦しみ、肉体の存在を各部分で認識し続けることができた。ジェフは現在、住まいがある台湾に戻っている。話し相手が一人減ったのは寂しいが、幸いなことにひどい筋肉痛に悩まないですむようになった。ジェフと親しくしていた外国人達と僕は、トレーニングについて話すとき、ジェフの指導はこうだったぞ、彼はこういっていたぞ、と互いに懐かしく思い出している。

^健康のために始めたジョギングで足腰は強くなったが、このままでは上半身が弱ると思い始めたウェートトレーニング。今ではトレーニングは生活の一部となり、1週間に少なくとも1回以上は体育館にいる。ある日、トレーニングの合間に、米国のハンサムな若者と運動と健康について話していると、若者は言った、「ジョギングは心臓のため、ウエートトレーニングはガールフレンドのため」と。若者が言うトレーニングの動機付けに僕は突然意表をつかれた。若者はそう言うと僕を見て、にやっとした。中国に2年間留学し、日本語も上手に話す真面目そうな若者の一面を垣間見たような気がした。

^ドイツ語学科第1回卒業の僕は、健康維持のために運動を続けながら、次回の人文学部同窓会を心待ちしている。なんと言っても、久しぶりに仲間と会い、語り合うことは楽しいに決まっているからだ。

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