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「読書の薦め」山中博心先生~“Novis2004”より~

2004/04/27

読書の薦め -人文学部長 山中 博心-

読書の喜びはただ与えられるだけでは得られません。読む側からの主体的な関わりがあって初めて書き手と気持ちをひとつにできます。人と人の心のキャッチボールですから相手をよく見てボールを投げなければなりません。言葉に現れないところを想像力で補いながら、何度も読み返す必要がある場合もあります。
^部分を読みながらいつも全体のイメージを膨らませます。例えばゲーテの「旅人の夜の歌」という詩です。

蜂はみな
しずもり
梢に
風の
そよぎなく
小鳥は森にふかく黙す
待てしばし やがて
おまえも憩えよう
^^^^^^^^^^(生野 幸吉訳)

峰々から梢へ、そして小鳥へと視線が自分に近づくことで世界が結び合わされます。外界の静けさに引きつけられるかのように、詩人の乱れた心は平安を取り戻します。そのとき「世界」と「私」のあいだの垣根は取り払われています。
ほんの八行の詩によって世界の静寂が見事に表されています。

ドイツの詩人 リルケの墓碑銘はどうでしょう。

薔薇よ ああ きよらかな矛盾よ
誰が夢にもあらぬ眠りを あまたなる瞼の陰に宿す
歓喜よ
^^^^^^^^^^(星野 慎一訳)

^薔薇の花が「矛盾」であるとはどんな意味なのでしょうか。読む人に問いかけています。しかも「きよらかな」矛盾とは何か。読む人によっては「きよらかな」という形容詞を「純粋な」と訳すかもしれません。美しい薔薇と人を傷つける棘から色々なことが想像されます。

^最後に草野心平さんの「詩」を挙げておきます。

草野心平 「冬眠」

という黒い丸が描いてあるだけです。これも詩なのです。皆さんならなんという題を付けますか。ちなみに草野さんは『冬眠』と付けておられます。何となく、熊が身を丸くして眠っているようなイメージです。

今恋をしているあなたにこっそりと。
ジャック・プレヴェール Paris. at night

三本のマッチを一つずつ擦ってゆく夜の闇
^^一本目は君の顔全体を見るため
^^^二本目は君の目を見るため
^^^^最後の一本は君の口を見るため
あとの暗がりは全体はそれをそっくり思い出すため
^^^^^君を抱きしめたまま。

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